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「海」「飛行機雲」「揺れる」


なぁ。
雲ひとつない青空が、窓枠に切り取られている。
まるで、フォトフレームのようだと月島は仰向けに寝転がった状態でそれを見ていた。
なぁ。
少し遠くて聞こえる甘い声に、返事をするのも億劫で無視を決め込んだのが悪かったのか。
視線の先を遮るように顔を覗き込まれた。
なんですか?
面倒くさくて、瞬きで問いかける。
通じているのかはわからないけれど、とりあえず、声を出したくなかった。
きっと、かすれていてろくに話せないのだ。
それくらい、さっきまで、喘がされていた。
ペットボトルの水を飲んだけれど、喉はからからに渇いているような気がした。
「さっきから、何を見てんだよ」
黒尾はちゅっと月島のこめかみにキスをして、その隣りに寝転んだ。
狭い。暑苦しい。
そんな風に思ったけれど押しのけるのも怠い。
話すことさえままならないのだから、どうしようもない。
全部を諦めて、月島は再び窓枠から見える切り取られた青空を眺めた。
鳥の影が横切ったように見えた。
雲もなく、ただ、青だけがそこに在ると思っていたのだけれど、窓の外は静止画ではなかった。
理解していたようで、していなかった自分に少しだけ驚く。
腕も足も腰も重い。
自分の体じゃないみたいに、指先ひとつ動かすのもしんどかった。
半分は求めた自分のせいだし、もう半分は箍がはずれてしまった黒尾のせいだ。
休日の、こんなに天気の良い昼間から。
動けなくなるほどに、求め、求められ、体を重ねた。
「目に、空が映って、キレイだな」
ふ、と、笑う気配が耳元に届く。
ああ、そうだ、しゃべられないんだった。
そんなはずはないのだけれど。
瞬きを何度か繰り返しているうちに、青空を分断する白い線が窓枠の端からすうっとのびてきた。
斜めに、真っ直ぐ、空は二つに分かれた。
白い白い飛行機雲が、線を描く。
時間が流れていく。
「今度、海に行こうぜ」
同じように空を見ていた黒尾がポツリと言った。
月島は視線を窓枠から黒尾へと移した。
「一緒に」
「いやです」
反射的に応えた声は、がらがらに掠れて酷いものだった。
それでも言葉は届いただろう。
「なんで!」
黒尾の声を無視して、月島は目を閉じた。
スイカ割りとかバーベキューとか花火とか。
海でしかできないことしようぜ。
耳元で囁く雑音が聞き取れなくなっていく。
喉は痛いし、体は怠いし、全部が面倒くさい。
黒尾の声が徐々に聞こえなくなっていくと同時に、眠っているベッドがゆらゆらと揺れたような気がした。
それは、まるで、海に浮かんだボートの上にいるようだった。
青い空と飛行機雲。
砂浜でスイカ割りをしたがる黒尾の影が見えたのは、気のせいに違いない。
そんな夢を見たような気がした。



終わり

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初出 2014-07-28 23:40:01 privatter




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