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「衝動」「茫然/呆然」「地面」


掴まれた手首が熱い。
指先が、手のひらが、体温以上に熱を持っているような気がした。
そんなことは、ありえないと言うのに。
触れた唇は思いのほか冷たくて、慣れていないからか、重なっただけで終わった。
目を閉じることなどできなかった。
瞬きを忘れるくらい間近になったその目を見ていた。
ただ、呆然としていた。
黒い瞳の中に目を見開いた自分の姿が映る。
「……か、らかって、いるんですか?」
熱と目とそれから沈黙に耐え切れなくて、先に言葉を発した。
熱い。
手首も頬も首筋も耳も、全て。
ぐらぐらと煮立っていくようで、地面が揺れているように思えた。
殴りたい衝動は手首を掴まれていることによって阻止され、見据えられた黒曜石に捕らわれて、目を逸らすことすら許されない。
「まさか」
口の端を歪め、それから、一言で否定する。
逃げられないと、警鐘が鳴り響く。
「怖い?」
逆に問われれば、怖くないと答える。
怖くは無い。
嘘じゃなかった。
ただ、熱い。
理由もわからない。
触れた唇の感触は覚えていなかった。
ただ、冷たい。
それだけが残っていた。
その衝動に耐え切れず、呆然とした意識が踏みしめた地面は、まるで頼りなかった。
もう一度、唇を塞がれた。
啄ばむように何度も繰り返される。
閉じられた目を見つめれば、睫毛が揺れた。
「目、閉じろよ」
見ていることに気付いた黒尾が勝手なことを言う。
「嫌です」
断れば、ふ、と笑われる。
「お前の目に映る俺は嫌いじゃないけどな」
これ以上近づけないくらいの距離で。
見つめ合ったお互いの目の中にいる自分は、本当に自分なのだろうか。
「僕は嫌いです」
「素直」
楽しそうに笑いながら、鼻先に頬に唇を落として、再び触れた唇は、少しだけ熱をもっていた。



終わり


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初出 2014-07-18 00:28:39 privatter
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