KTTK111のオフ活動のお知らせや短編置場、時々雑談。
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「靴」「傘」「寄り道」
天気予報は時折あてにならない。
太陽がかんかんと照らして、気温を上昇させている間に、真っ白な入道雲はどんどん大きくなって、あっという間にその色を変えてしまう。
太陽を隠し、雷を呼び、そうして、とどめとばかりにバケツをひっくり返したどころか、蛇口を全開にしたシャワーのような雨を降らすのだ。
これは、まずいと思った時には、すでに遅かった。
頭から靴の中までびしょ濡れになる。
(さて。どうしようか)
こんなことなら真っ直ぐ帰ればよかった。
寄り道なんかしている場合じゃなかった。
店を出てすぐに雨が降り出した。
慌てて最寄駅へと走ったのだが、どうにもならずに、この様である。
電話をすれば、きっと、もう手遅れですよとあっさり言われそうな気がした。
確かに、Tシャツは濡れてべっとりと身体に張り付いているし、ジーンズは水を吸って随分と重たくなっている。
それでも。
それでも、だ。
空を見上げれば、どうにも雨はやみそうにない。
「黒尾さん?」
紺色の傘が、目の前で立ち止まる。
行き交う人の傘は大抵目線の下にあるというのに、その人は自分と同じ背丈である。
「ツッキー!」
どうしてここに?というのは、愚問だった。
同じ部屋に暮らしている月島とは、帰り道は一緒なのだ。
「だから、傘を、持っていけと、言いましたよね。僕」
上から下までびしょ濡れ姿を眺めて、月島は冷めたい目で黒尾を見下ろした。
先に部屋を出たのは黒尾だった。
確かにそれを背中で聞いたような気がする。
「そこまで濡れてたら、傘なんて意味無いんじゃないですか?」
楽しそうに笑った月島はそのまま歩き出そうとしたので、黒尾は慌てて引き止めた。
「い、一緒に帰ろーぜ」
「嫌です」
「なんで!」
「自分がどんな姿をしているのか、知ってます?」
「傘、入れてよ」
眉間の皺がさらに深くなっていく。
月島は鏡のような部分がある。
怒りをぶつければ怒りを。
優しさを与えれば優しさを。
それぞれ返してくる。
「傘なんて、必要ないみたいですけど」
溜息を零しながら、ほんの少しだけ持っていた傘を傾けてくれた。
「ツッキーと相合傘!」
ひょいっとその下に入って、追い出されないように月島の手ごと傘の柄を掴んだ。
「ちょっと!」
「皆、自分のことしか見えてないから」
雨の中、他人を気にする人はいない。
ふと、足元を見れば、月島の靴は色が変わるほど濡れていた。
よく見れば眼鏡も濡れている。
傘をさして歩いているだけであれば、こんなに濡れることもないだろう。
「ツッキーは、なんで駅にいんの?今日休みだっただろ」
「……、買い物があったので」
「いつもは俺に電話かメールしてくるのに?わざわざ、自分で?」
「……傘、いらないみたいですね」
「いる。ツッキーごと傘、欲しい」
ぷいっと顔をそらした月島から本当に突き放されるのは困ると、黒尾はぎゅうっと握る手に力を入れた。
「痛いんですけど」
「ツッキー愛してる」
「バカですか」
「そこは、僕もですって返してくれるところだろ?」
「傘ごと捨てますよ?」
「あ、待って、待て。早まるな」
空いている方の手で本気で殴られそうになる。
「今日さ、思ったより早く帰ってこれたからさ。駅前のケーキ屋の、限定のやつ、買えたから」
「……それのせいで雨に降られたんですか?」
「ご名答」
「本当にバカじゃないの」
「おかげでツッキーに迎えに来てもらえたし、相合傘もできたし、俺は幸せですけど?」
へらっと笑って月島の顔を覗き込めば、少し照れたように目を逸らす。
もっと素直になってくれてもいいのにと思うけれど、仕方が無い。
「この豪雨の中、ケーキの箱だけは死守したから褒めて?」
「……、コーヒーは僕がいれますよ」
諦めたように苦笑した月島に黒尾はつられたように笑った。
雨は、いつの間にか小降りになっていた。
終わり
天気予報は時折あてにならない。
太陽がかんかんと照らして、気温を上昇させている間に、真っ白な入道雲はどんどん大きくなって、あっという間にその色を変えてしまう。
太陽を隠し、雷を呼び、そうして、とどめとばかりにバケツをひっくり返したどころか、蛇口を全開にしたシャワーのような雨を降らすのだ。
これは、まずいと思った時には、すでに遅かった。
頭から靴の中までびしょ濡れになる。
(さて。どうしようか)
こんなことなら真っ直ぐ帰ればよかった。
寄り道なんかしている場合じゃなかった。
店を出てすぐに雨が降り出した。
慌てて最寄駅へと走ったのだが、どうにもならずに、この様である。
電話をすれば、きっと、もう手遅れですよとあっさり言われそうな気がした。
確かに、Tシャツは濡れてべっとりと身体に張り付いているし、ジーンズは水を吸って随分と重たくなっている。
それでも。
それでも、だ。
空を見上げれば、どうにも雨はやみそうにない。
「黒尾さん?」
紺色の傘が、目の前で立ち止まる。
行き交う人の傘は大抵目線の下にあるというのに、その人は自分と同じ背丈である。
「ツッキー!」
どうしてここに?というのは、愚問だった。
同じ部屋に暮らしている月島とは、帰り道は一緒なのだ。
「だから、傘を、持っていけと、言いましたよね。僕」
上から下までびしょ濡れ姿を眺めて、月島は冷めたい目で黒尾を見下ろした。
先に部屋を出たのは黒尾だった。
確かにそれを背中で聞いたような気がする。
「そこまで濡れてたら、傘なんて意味無いんじゃないですか?」
楽しそうに笑った月島はそのまま歩き出そうとしたので、黒尾は慌てて引き止めた。
「い、一緒に帰ろーぜ」
「嫌です」
「なんで!」
「自分がどんな姿をしているのか、知ってます?」
「傘、入れてよ」
眉間の皺がさらに深くなっていく。
月島は鏡のような部分がある。
怒りをぶつければ怒りを。
優しさを与えれば優しさを。
それぞれ返してくる。
「傘なんて、必要ないみたいですけど」
溜息を零しながら、ほんの少しだけ持っていた傘を傾けてくれた。
「ツッキーと相合傘!」
ひょいっとその下に入って、追い出されないように月島の手ごと傘の柄を掴んだ。
「ちょっと!」
「皆、自分のことしか見えてないから」
雨の中、他人を気にする人はいない。
ふと、足元を見れば、月島の靴は色が変わるほど濡れていた。
よく見れば眼鏡も濡れている。
傘をさして歩いているだけであれば、こんなに濡れることもないだろう。
「ツッキーは、なんで駅にいんの?今日休みだっただろ」
「……、買い物があったので」
「いつもは俺に電話かメールしてくるのに?わざわざ、自分で?」
「……傘、いらないみたいですね」
「いる。ツッキーごと傘、欲しい」
ぷいっと顔をそらした月島から本当に突き放されるのは困ると、黒尾はぎゅうっと握る手に力を入れた。
「痛いんですけど」
「ツッキー愛してる」
「バカですか」
「そこは、僕もですって返してくれるところだろ?」
「傘ごと捨てますよ?」
「あ、待って、待て。早まるな」
空いている方の手で本気で殴られそうになる。
「今日さ、思ったより早く帰ってこれたからさ。駅前のケーキ屋の、限定のやつ、買えたから」
「……それのせいで雨に降られたんですか?」
「ご名答」
「本当にバカじゃないの」
「おかげでツッキーに迎えに来てもらえたし、相合傘もできたし、俺は幸せですけど?」
へらっと笑って月島の顔を覗き込めば、少し照れたように目を逸らす。
もっと素直になってくれてもいいのにと思うけれど、仕方が無い。
「この豪雨の中、ケーキの箱だけは死守したから褒めて?」
「……、コーヒーは僕がいれますよ」
諦めたように苦笑した月島に黒尾はつられたように笑った。
雨は、いつの間にか小降りになっていた。
終わり
初出 2014-07-17 22:29:37 privatter
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