KTTK111のオフ活動のお知らせや短編置場、時々雑談。
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そっ、と。伸ばした指先で触れた首筋が、思いのほか冷たくて、驚く。
流れた汗を拭っても溢れてくるからか、肌が冷えるのだろう。
「なんですか?」
視線を前に向けたまま、静かな声が響いて、鼓膜を揺らす。
低すぎないその落ち着いた声音が優しい。
「噛みつきたくて」
「変態デスネ」
色白い肌の、血管が透けるようなうなじに見惚れる。
「きっと紅い色がキレイに映える……」
「好きですね、ソレ」
溜息ののち、手にしたドリンクボトルで水分を補給する。
水分を飲み込む喉の動きが、別の生き物のようで艶かしい。
「ソレ?」
「血液」
ふ、と、口角を斜めに上げて笑う。
そうして、小馬鹿にするときが本当に楽しそうで、性格が悪い。
「大事だろ」
生きるために。
生き残るために。
その流れを止めてはならない。
「ソウデスネ」
ちっともそんな風に思っていないくせに、するりとそう言える。
瞬時にその場の空気を見極めて、必要な言葉を取り出すことができる賢さは、もっと有効に活用できるのではないか。
セミの声が煩い。
夏の日差しが熱い。
そうして、鬱蒼と茂る木々の葉を揺らす風は待てども待てども一向に吹かない。
短い休憩時間に、ろくな会話もないまま、ただ汗だけが流れ落ちていく。
「ねえ、メガネ君はさ、なんでバレーボールしてんの?」
セミの声がひときわ大きく鳴り響く。
まるで、騒音だ。
「なんででしょうね」
まともに相手をする気もないらしく、表情ひとつ変えずに、用意された答えを放つ。
木兎にバレーは楽しいかと問われ楽しくはないと答えただけはある。
楽しくはないのに、どうして、バレーをしているのだろうか。
どうして、貪欲にその技術を吸収していくのだろうか。
「黒尾さんは、どうしてバレーボールしてるんですか?」
深い意味はきっとなかっただろう。
同じ質問をされ、黒尾は笑った。
「俺に興味あるの?」
「……、あまり」
「正直だな」
すっかり油断していただろう、月島の隙を見事に衝いて、黒尾はその唇に触れた。
薄く乾いた唇は、酷く冷たかった。
近付いた双眸は大きく見開かれ、ただキレイに輝いている。
「意識、したくなるだろ?」
戸惑い、怒り、そして、照れ。
そんな感情が月島のガラス玉のような目の中に渦を巻いた。
「まさか」
「思ったより冷静?」
動揺をほとんど見せない月島の強がりとポーカーフェイスに感心しながら、それが逆効果だと知らない幼さが愛しい。
「殴らなかっただけ優しいデショ。からかうのもいいかげんにしてください」
「本気なんだけど」
穏やかな笑顔のその目の奥に、一線の光を宿した瞬間、それは月島の声を奪った。
もう一度、今度はその額に優しく唇を落とす。
そうして、数秒後、呆れたのか諦めたのか、目を伏せた月島が溜息を吐く。
「悪趣味ですね」
「紅い痕、つけたいって言っただろ」
「どうして、僕なんですか?」
「初めて会った時から君に決めていました」
「信じませんよ」
「残念」
本当と嘘を混ぜたような会話にセミの声が邪魔をする。
もうすぐ休憩時間も終わるだろう。
「月島」
「はい?」
反射なのか、素直でかわいい返事をするので、黒尾は堪え切れずにぶはっと吹きだした。
「なんなんですか」
不満を露わにして、月島がタオルを掴んで立ち上がった。
「かわいくないな」
「高校一年の男子にかわいさを求めないでください」
「そこが、かわいい」
「……悪食ですね」
上から冷ややかに見下ろされて、黒尾は眩しそうに目を細めた。
逆光に惑わされて、その表情が良く見えない。
「そうでもない」
どちらかといえば、美食じゃないか?
その答えを聞くより先に、月島は体育館へと歩き出していた。
誰かが呼びに来る前に戻った方がいいだろうと、黒尾も立ち上がった。
昼を過ぎれば、きっと、もっと暑くなる。
見上げた空は夏の青色だけが広がっていた。
セミが騒がしいのも今のうちだ。
流れ落ちる汗をタオルで拭い、真っ直ぐに伸びた背中を追いかけた。
終わり
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