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月島編

『おかえり!
 連日の雪はやんだか?
 もっと寒くなるなんて信じられない。
 すげーな。
 気をつけろよ、風邪ひかないようにさ。
 ツッキーは元気?』

ただいま、と帰宅した月島に母親から葉書届いてるわよと声が掛かる。
月島は下駄箱の上に置かれた、白い官製はがきを手にとって裏返した。
ヘタでもなく、かといってうまくもない文字が真ん中に並んでいる。
油性ペンで書いたであろう太さのその文字は、最後に黒尾という二文字。
その後ろにたぶん猫を描いたのだと推測される黒い物体が添えられていた。

(50円もかける意味がわからない)

月島はその葉書を手にして、一旦自室へと向かった。
黒尾からその葉書が月島の元に届くようになったのは、1月の終わりだった。



冬の合同合宿の際、年賀状を出し合おう!ということになったのは、何故だかいまだにわからない。
誰が言い出したのかわからないが、その場にいた人間全員が巻き込まれた。
各校の住所録をマネージャーたちが人数分作ってくれたおかげで、逃れることもできなかった。
悪用すんなよ!と冗談混じりに念を押す先輩たちを見ながら、だったら、こんなばかげたことをノリノリでしなくてもいいのではないかと、乾いた息を吐いたことは覚えている。
面倒ではあったが、決まってしまったものはしかたがないと、月島は人数分の年賀状を買い、送った。
そして、迎えた三箇日。
高校一年にして初めて、自分宛の年賀状が一センチの厚さを超えた。
あの場にいた5校のバスケ部員のうち、年賀状を出さなかった者が一人もいなかったという。
呆れるほどの連帯感である。
多分、もう二度と同じ面子で顔を合わせることはできないだろうという、一種の感傷のようなものが、あの場にはあった。
夏から冬にかけての半年間。
繰り返し繰り返し、ただひたすらに試合をし続けた。
ライバルであり、同志でもあったのだろう。
いまだその気持ちを感覚として納得はできていないが、理解はできる。
だからこそ、年賀状というささやかだけれど形に残る繋がりに皆が無意識に手を伸ばしたのかもしれない。



そんな経緯もあって、黒尾が月島の住所を知っていてもなんら不思議はない。
が、謎なのは、届くようになった葉書である。
絵葉書でもなんでもない、郵便局に売っている官製はがきだ。
メールでもかまわないような内容が数行。
時には豪快に、時には小さく、綴られて届く。
二月の半ばで、すでに3通目だ。
あまりにも返事に困る内容で、スルーしてしまえば簡単に解決するはずだった。
黒尾の意図していることがわからないし、かといって問い質すのもおかしい。
ただの息抜きの遊びなのかもしれないが、これを書いて投函する方が手間なのではないのだろうか。
そもそも、3年で部活を引退した彼は、紛れもない受験生なのである。

(あ、でも、推薦とかだったかな……)

曖昧な記憶なのは、さして興味がないのと、あえて意識をしないようにしている結果だった。
大学という未知の世界に行ってしまうことを仕方ないと諦めつつも奥底にくすぶる寂しさを隠すためだ。
葉書というものは、メールと違って、目の前に形がある。
手書きの文字の強さは、眺めているだけで、いやでもこの文字を書いた相手の顔がちらつくのだ。

(……面倒くさい)

月島は机の上にその葉書を置いて、部屋を出た。



黒尾から初めて届いた葉書には、『元気?』のみという、大変シンプルなものだった。
宛名の方に黒尾とだけ書いてあった。
その日の月島の記憶によれば、前日の夜に10分ほど電話で話したことに間違いはない。
さらにその前日にもメールでやりとりをしていた。
元気であることは誰よりも黒尾が良く知っているはずなのだ。
電話では葉書について、何も言っていなかった。
その時にスルーをしてしまえば良かったのだと、今更後悔をする。

(まさか、定期的に届くようになるなんて思わなかった…)

元気?との問いに、メールで返事をしてしまえば良かったのだ。
けれど、月島は黒尾からの葉書に対して葉書で返事を送ったのである。
元気であるということ、雪が積もったということ、そして、受験勉強がんばってくださいということ。
たいして大きくもないあの白い葉書を文字で埋めるのは容易ではなく、中途半端な空白を残したままポストに投函をした。
それから数日後、電話がかかってきたけれど、黒尾は葉書について一言も触れなかった。
だから、月島もあえて葉書のことは気にしないようにした。
息抜きなのか、なんなのか。
黒尾の気まぐれな遊びだったのかもしれない。
そして、一週間ほど過ぎた頃、黒尾から二通目の葉書が届いた。

『ツッキーは元気?
 姿を消してた野良猫がまた最近うろついてる。
 気に入った場所だったのかな?』



自室の机の前に座った月島は真っ白い葉書を前に頭を抱えていた。
この『遊び』に付き合ったところで、喜ぶのは黒尾だけである。
楽しそうに笑う顔が脳裏に浮かんで、月島は溜息を吐いた。
二通目の葉書で、それに気付いた。
だから、そうとわからないように、それに返事をした。

(たぶん、気付いてる)

難しいことではなかったけれど、まさか三通目が届くとは思わなかったのだ。

(暇人か……)

そんなに勉強が大変なのだろうかと、いらぬ心配をしてしまいそうになる。
黒尾からの葉書をぼんやり眺めて、月島は返事をすることをやめた。

『僕は元気ですよ。黒尾さんこそこんな大事な時に風邪をひかないように気をつけてくださいね』

葉書の真ん中にそれだけを書いて、月島はペンを投げ出した。
これを見た黒尾がどんな反応をするのかを少しだけ想像して、笑う。



そして、葉書を投函してから数日後。
黒尾から四通目の葉書が月島のもとに届いた。



終わり



黒尾編

1月も終わる頃、あまりにも透き通った空がきれいだったからか、ただの気まぐれか。
黒尾はコンビニで葉書を一枚買った。



秋の途中。
黒尾は月島と春高予選前の合宿で、恋人としてのいわゆるお付き合いを始めた。
どうして、そうなったのかは、今は割愛する。
とにかく、お互いに好きだということがわかったのだ。
宮城と東京と遠距離ではあったが、気持ちを確かめ合った分、以前よりは余裕があった。
一方的に好意を持っていた頃と相手も同じだとわかった後では、意識がこんなにも異なるのかと、黒尾は自分の変化を時々客観的に分析をする。
そうでもしないと、感情ばかりが先走ってしまいそうになるからだ。
そこまで浮かれるわけには行かない時期だからこそ、である。
メールは付き合う前から思い立った時に送っている。
月島からの返信は必要な時以外では3回に1度くらいの割合だ。
電話もするようになった。
去年はまだ1時間くらい相手をしてくれていたけれど、年が明けてからは受験勉強の邪魔になるでしょ?と、10分くらいで切られてしまうようになった。
そのあたりのスケジュール管理はちゃんとできているし問題はないと言っても聞き入れてもらえないのだからしかたがない。
あと1ヶ月ほどの辛抱だと、黒尾は溜息を飲み込んで携帯電話を放り出した。



月島の家の住所はわかっている。
梟谷学園グループの合同合宿に烏野高校が混ざるようになって半年。
春高の本選前最後の合宿が12月にあった。
誰が言い出したのかわからないが、年賀状を出し合おうという話になった。
元々ノリの良い連中の集まりだった。
二つ返事でいいな!やろう!ということになり、そこに参加していた全員に全員が年賀状を出すことになったのだ。
だから、住所はわかっている。
メールでも電話でもなく、葉書が届いたらどんな反応をするのだろう。
そんな好奇心が始まりだった。
家に届くということは家族に見られてもかまわない内容にしなければと、黒尾は白い葉書を前に何を書くべきかと悩んだ。
悩んだ末に、『元気?』と一言だけ書いた。
骨まで凍りそうな寒い朝、黒尾は葉書をポストに投函した。
息が白く広がったけれど、空はどこまでも青く澄んでいた。



葉書を投函した翌日、何もしらないふりをして黒尾は月島に電話をした。
一週間に一度で我慢している電話にヒマなんですか?余裕ですねと言われながら、それでもその声が聞けるだけで良かった。
素直じゃない月島がどんな表情でそれを言うのか、想像するのも悪くなかった。
この時期、3年が引退をした部活は4月に新入部員がやってくるまで、物足りなさと寂しさを感じる。
ただでさえ烏野高校のバレー部は人数が多くなかった。
3人とはいえ、3年生がいないのは、きっと思うことも多いだろう。
自分でも、たまに引退したバレー部の様子を覗きにいけば、強がりな顔をした1、2年に歓迎されるのだから、同じような感じなのかもしれない。
それを月島が言うことも顔に出すこともないのは、重々承知している。
だから、自分と話すことで少しでも気がまぎれたらいいと思うのは打算的だろうか。
声からも話からも元気なのはよくわかる。
けれど、あえて『元気?』と書いて送ったのは、直接『元気ですよ』と聞きたかったのかもしれないと思った。



それから、数日後、メールではなんの音沙汰もなかった。
これはスルーされてしまっただろうかと思い始めた頃、帰宅した黒尾に葉書が届いていると告げられた。
黒尾はその葉書をなんでもないような表情を作って受け取って、自室へと飛び込んだ。
それは、月島からの返事だった。

『元気ですよ。昨日からまた雪が降って積もりました。足元が滑るので歩きづらいです。そちらは寒くないですか?受験勉強がんばってください』

神経質そうなきっちりとした文字で、葉書の上半分にのみに書かれていた。
きっと、もっと何かを書こうと思って、何も思いつかなかったのだろう。
そんな月島を思って、黒尾は苦笑した。
月島が葉書を用意して返事を寄越す確率は50%だった。
スルーをするか、メールで何なんですか?と聞いてくるか、葉書を買うか。
50円とはいえ、それを買ってまで返事をするかどうかは、ちょっとした賭けだった。
負けず嫌いをうまく挑発できたようで、黒尾は届いた葉書にキスをした。



「す、すー、す……」

誰にでも見られてしまう環境で、どうやったら伝えられるだろうかという自分で課した問題に割りと真剣に取り組んでしまっている。
ぱっと見わからないように。
気付くか気付かないか。
それが楽しみで、黒尾は白い葉書と向き合っていた。

『姿を消してた野良猫がまた最近うろついてる。』

我ながらなんて意味のない文章だと、笑う。

『気に入った場所だったのかな?』

これで、一目ではわからないだろうし、これを見た月島の家族も気にもとめないだろう。
この『遊び』に隠した気持ちにちゃんと気付いてもえたら嬉しい。
黒尾は葉書をカバンにしまうと、数学の問題集を広げた。



葉書を投函してから数日後。
月島から葉書が届く。
電話をした際、月島が葉書について何も訊いてこなかったので、黒尾は自分からも葉書について言うことをしなかった。
電話でもメールでも繋がっている。
それなのに、この葉書のやり取りはなんなのだろう。
手書き文字は、携帯の画面よりも愛しさが増すような気がした。

『黒尾さん、あの、僕は元気です。先日もらったオレンジがすっぱくてたべるのきつかったです。』

丁寧な文字が並んでいる。
先日送った自分の葉書に負けず劣らず、どうでもよい内容だ。
まちがいなく、『返事』だと、黒尾は確信した。
ただ、自分が送った単純なものじゃないのは、すぐにわかった。
さて、どうするかと宛名の面を見ると隅っこに小さく数字の9と書かれていた。
よく見ないとわからないくらい小さな文字だった。
それがヒントというより、答えなのだろう。
黒尾はもう一度、月島からの文面も読み返す。
指で一文字ずつ数えながら、答えを探して、最後に笑った。
この『遊び』に真剣に付き合ってくれるとは思わなかった。
それが嬉しかった。
早く会って抱き締めたいと思いながら、月島のかわりに葉書にキスをした。



『おかえり!
 連日の雪はやんだか?
 もっと寒くなるなんて信じられない。
 すげーな。
 気をつけろよ、風邪ひかないようにさ。
 ツッキーは元気?』

恋文の返事は簡単にわかりやすく。
黒尾は三通目の葉書を投函する。
曇った空は重く暗い。
きっと帰る頃には雨になるだろう。
傘を片手に学校へと向かった。
電話でもメールでもない。
もうひとつの繋がりがこんなにも楽しくて面白くなるとは思わなかった。
勉強の合間に思いついた『遊び』でしかなかったはずだというのに、帰宅するたび郵便受けが気になるようになってしまった。
メールをしても電話をしても葉書が届くのを待ってしまう。
昔は、手紙しか通信手段がなかっただなんて、信じられなかった。
それでも、今なら少しはわかる。
待つ時間が、また新たな想いを募らせていくのかもしれない。
現に、自分がそうなのだ。
葉書を送るたび、葉書が届くたび、好きという思いが深くなっていくような気がした。



そして、再び数日後。
届いた葉書に、黒尾は爆笑することになるのだった。



終わり

拍手[0回]


基本は縦読み。
単純ですが、月島くんからの2通目の暗号には苦労したので、わかっていただけたらうれしいです(笑)


初出
月島編 
2014年5月30日 21:41 pixiv
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3864556

黒尾編
2014年5月31日 20:09 pixiv
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3868224
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