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KTTK111のオフ活動のお知らせや短編置場、時々雑談。
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「本」「記憶」「付箋」


「記憶力に自信はありますか?」
月島がぽつりと呟いた。
あまりにも自然に、そして微かな声だったので、黒尾は聞き逃してしまうところだった。
独り言にしては、疑問符がはっきりと浮かんでいるように見えた。
どんな課題を出されたのかは知らないが、月島の手元の本には、付箋がいくつも貼ってある。
「時と場合による……かな」
答えてもいいものかどうか。
迷いながらもやはり月島と同じようにぽつりと呟く。
静かな部屋がさらにしんっと音が消えた。
ページをめくる音が響く。
「ツッキーのさ、ドシャット決めたブロックの音とか、そーゆーのは覚えてる」
「何年前の話をしているんですか」
「そんなに昔の話じゃないだろ」
「昔の話ですよ」
「大事な記憶だろ」
「忘れました」
「付箋、貼っとけよ」
「本じゃあるまいし」
そう言って、月島はぱたんと読んでいた途中の本を閉じた。
それから、貴方はいつも邪魔ばかりすると、溜息を吐くので、黒尾はその溜息を掬うように月島の唇を塞いだ。
「誘ったんじゃねえの?」
「何を?」
「邪魔するように」
リビングのソファで二人、並んで座っていてもお互いの見ているものが同じになることは少ない。
今だって月島は本を読んでいたし、黒尾は携帯ゲームで遊んでいた。
対戦型のゲームらしく、どうやら狐爪と何かを賭けているらしい。
最近、時間があるとそうして携帯ゲームを手にしている。
「それ、いいんですか?」
眼鏡の奥の目が、黒尾の手元に視線を移す。
「負けた」
笑って、それから、もう一度、キスをした。
「僕も、覚えていることがありましたよ。付箋が貼ってあったのかも」
「何を?」
「黒尾さんと初めてキスした日」
「……っ」
淡々と答えた月島と対照的に黒尾の顔が一瞬で紅潮した。
「付箋はずして、捨てた方がいいみたいですね」
その様子を間近で眺めていた月島が目を丸くした後で、もう一度溜息を吐く。
酷く、呆れていたようだった。
「やめて。もったいない」
「いらない記憶デショ」
「大切な記憶だろ」
こつんと額を合わせて、黒尾は口元を緩めた。
「上書き、されるから」
「本みたいに書き足せよ」
どの記憶も。
大切だろ。
黒尾は、そう言って、月島の頭を撫でた。



終わり

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初出 2014-07-23 22:41:44 privatter
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