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「成功」「笑顔」「崩落」


一本の道を歩いている。
これは夢だと思った。
夢の中で夢だとわかることをなんといっただろうか。
「明晰夢、だろ?」
僕は今、自分の疑問を口にしていただろうか。
夢なのだから仕方がない。
隣りを見れば何故だか黒尾さんがいて、さっきの答えは黒尾さんが言ったのだ。
一本の道を並んで歩く。
行き先はわからない。
夢なのだから、行きたい場所へ行けばいいのに、なぜか歩いている。
おかしな話だ。
隣りを歩く黒尾さんは、それから一度もしゃべらなかった。
それを、僕は、とても残念に思った。
自分から話しかけてもいないというのに、我ながら自分勝手だと思った。
歩く速度は変わらないというのに、何故か足が急に重くなっていく。
一歩踏み出すごとに沈んでいくような感覚が足の裏に伝わった。
「黒尾さん」
呼んだ瞬間、足元が崩落した。
それは、僕が、黒尾さんに対して築いていた壁を扉に変えた証拠だった。
いつでも開けられる、鍵のない扉。
壁を築かせたのも黒尾さんだったけれど、それを扉に変えたのも黒尾さんだ。
目の前に現れた扉を開けようとするより先に足元の道が消えた。


今朝見たばかりの夢の話をした。
「一本道を並んで歩いていたけれど、足元が崩れ落ちたんです。そこで目が覚めました」
電話の向こうで笑い声がする。
すぐにいつもの笑顔を思い浮かべたけれど、少し違うような気もした。
そもそも黒尾さんの笑顔を良く覚えていなかった。
『次はもっと早く俺にしがみつけよ。助けてやるから』
簡単に言う。
「夢ですよ」
それなのに、本当に縋ってしまいそうだった。
『夢だからだろ。俺はツッキーを助けるヒーローにもなれる』
「なんですか、それ」
『無敵だってこと』
なんて、自由で自信の塊なのだろう。
呆れるほどバカバカしいけれど、信じてしまいそうになる。
「じゃあ、次に同じ夢を見たら、助けてください」
『まかせろ』
二人で、同時に笑い合う。
こうなった時ほど会いたくてたまらない。
言わないけれど、夢ではなく、本物の黒尾さんにしがみつきたいんですよと、その言葉を飲み込んだ。


その夜。
本当に同じ夢を見た。
すでに足元は崩れ落ち、伸ばした両手が扉を掴んで、体を支えているだけだった。
黒尾さんの姿は何処にもなかった。
何を間違っただろうか。
会いたいと素直に言えばよかったのか。
できないことを伝えて、相手に負担をかけるのはどうなのか。
言っていい時とわるい時くらいの判別はできる。
自分の全体重を支えているはずなのに不思議と腕は痛くない。
夢だからなのか。
都合が良すぎる。
「しがみつけって言っただろ」
「隣りにいなかったくせに」
両手をつかまれ、すごい力で上へと引っ張りあげられた。
扉は開いていて、気にする間もなく中へと入った。
目の前には黒尾さんがいた。
「大成功」
「なにがですか?」
「俺を呼んだだろ。ヒーローは呼ばれないと助けに行けない」
「呼んだ覚えはありませんけど?」
「でも呼ばれたんだ」
目の前の黒尾さんはなぜかきらきらと光っていて、それはヒーローだからなのかなと思った。
「次も会えますか?」
「ツッキーが呼べば会いにいく」
きらきらと光る黒尾さんはまたもや簡単に言って、その姿を消した。


目が覚めたときには、見慣れた自室の天井があった。
(疲れた)
仰向けに寝転がったまま、ほっと息を吐いた。
自分の願望がこんな夢となって表れるのであれば、毎回疲労困憊で目覚めたくはなかった。
(次はちゃんと、言おう)
それが無理難題でもきっといつか解いてくれるのだ。
黒尾さんは、ヒーローなのだから。
崩落した一本道から笑顔で救い出すことを成功させる。
その強さにも惹かれたのだろう。
(会いたいです)
目を閉じて、笑う顔を思い浮かべた。


終わり


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初出 2014-09-30 00:07:02 privatter
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