KTTK111のオフ活動のお知らせや短編置場、時々雑談。
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「成功」「笑顔」「崩落」
一本の道を歩いている。
これは夢だと思った。
夢の中で夢だとわかることをなんといっただろうか。
「明晰夢、だろ?」
僕は今、自分の疑問を口にしていただろうか。
夢なのだから仕方がない。
隣りを見れば何故だか黒尾さんがいて、さっきの答えは黒尾さんが言ったのだ。
一本の道を並んで歩く。
行き先はわからない。
夢なのだから、行きたい場所へ行けばいいのに、なぜか歩いている。
おかしな話だ。
隣りを歩く黒尾さんは、それから一度もしゃべらなかった。
それを、僕は、とても残念に思った。
自分から話しかけてもいないというのに、我ながら自分勝手だと思った。
歩く速度は変わらないというのに、何故か足が急に重くなっていく。
一歩踏み出すごとに沈んでいくような感覚が足の裏に伝わった。
「黒尾さん」
呼んだ瞬間、足元が崩落した。
それは、僕が、黒尾さんに対して築いていた壁を扉に変えた証拠だった。
いつでも開けられる、鍵のない扉。
壁を築かせたのも黒尾さんだったけれど、それを扉に変えたのも黒尾さんだ。
目の前に現れた扉を開けようとするより先に足元の道が消えた。
今朝見たばかりの夢の話をした。
「一本道を並んで歩いていたけれど、足元が崩れ落ちたんです。そこで目が覚めました」
電話の向こうで笑い声がする。
すぐにいつもの笑顔を思い浮かべたけれど、少し違うような気もした。
そもそも黒尾さんの笑顔を良く覚えていなかった。
『次はもっと早く俺にしがみつけよ。助けてやるから』
簡単に言う。
「夢ですよ」
それなのに、本当に縋ってしまいそうだった。
『夢だからだろ。俺はツッキーを助けるヒーローにもなれる』
「なんですか、それ」
『無敵だってこと』
なんて、自由で自信の塊なのだろう。
呆れるほどバカバカしいけれど、信じてしまいそうになる。
「じゃあ、次に同じ夢を見たら、助けてください」
『まかせろ』
二人で、同時に笑い合う。
こうなった時ほど会いたくてたまらない。
言わないけれど、夢ではなく、本物の黒尾さんにしがみつきたいんですよと、その言葉を飲み込んだ。
その夜。
本当に同じ夢を見た。
すでに足元は崩れ落ち、伸ばした両手が扉を掴んで、体を支えているだけだった。
黒尾さんの姿は何処にもなかった。
何を間違っただろうか。
会いたいと素直に言えばよかったのか。
できないことを伝えて、相手に負担をかけるのはどうなのか。
言っていい時とわるい時くらいの判別はできる。
自分の全体重を支えているはずなのに不思議と腕は痛くない。
夢だからなのか。
都合が良すぎる。
「しがみつけって言っただろ」
「隣りにいなかったくせに」
両手をつかまれ、すごい力で上へと引っ張りあげられた。
扉は開いていて、気にする間もなく中へと入った。
目の前には黒尾さんがいた。
「大成功」
「なにがですか?」
「俺を呼んだだろ。ヒーローは呼ばれないと助けに行けない」
「呼んだ覚えはありませんけど?」
「でも呼ばれたんだ」
目の前の黒尾さんはなぜかきらきらと光っていて、それはヒーローだからなのかなと思った。
「次も会えますか?」
「ツッキーが呼べば会いにいく」
きらきらと光る黒尾さんはまたもや簡単に言って、その姿を消した。
目が覚めたときには、見慣れた自室の天井があった。
(疲れた)
仰向けに寝転がったまま、ほっと息を吐いた。
自分の願望がこんな夢となって表れるのであれば、毎回疲労困憊で目覚めたくはなかった。
(次はちゃんと、言おう)
それが無理難題でもきっといつか解いてくれるのだ。
黒尾さんは、ヒーローなのだから。
崩落した一本道から笑顔で救い出すことを成功させる。
その強さにも惹かれたのだろう。
(会いたいです)
目を閉じて、笑う顔を思い浮かべた。
終わり
一本の道を歩いている。
これは夢だと思った。
夢の中で夢だとわかることをなんといっただろうか。
「明晰夢、だろ?」
僕は今、自分の疑問を口にしていただろうか。
夢なのだから仕方がない。
隣りを見れば何故だか黒尾さんがいて、さっきの答えは黒尾さんが言ったのだ。
一本の道を並んで歩く。
行き先はわからない。
夢なのだから、行きたい場所へ行けばいいのに、なぜか歩いている。
おかしな話だ。
隣りを歩く黒尾さんは、それから一度もしゃべらなかった。
それを、僕は、とても残念に思った。
自分から話しかけてもいないというのに、我ながら自分勝手だと思った。
歩く速度は変わらないというのに、何故か足が急に重くなっていく。
一歩踏み出すごとに沈んでいくような感覚が足の裏に伝わった。
「黒尾さん」
呼んだ瞬間、足元が崩落した。
それは、僕が、黒尾さんに対して築いていた壁を扉に変えた証拠だった。
いつでも開けられる、鍵のない扉。
壁を築かせたのも黒尾さんだったけれど、それを扉に変えたのも黒尾さんだ。
目の前に現れた扉を開けようとするより先に足元の道が消えた。
今朝見たばかりの夢の話をした。
「一本道を並んで歩いていたけれど、足元が崩れ落ちたんです。そこで目が覚めました」
電話の向こうで笑い声がする。
すぐにいつもの笑顔を思い浮かべたけれど、少し違うような気もした。
そもそも黒尾さんの笑顔を良く覚えていなかった。
『次はもっと早く俺にしがみつけよ。助けてやるから』
簡単に言う。
「夢ですよ」
それなのに、本当に縋ってしまいそうだった。
『夢だからだろ。俺はツッキーを助けるヒーローにもなれる』
「なんですか、それ」
『無敵だってこと』
なんて、自由で自信の塊なのだろう。
呆れるほどバカバカしいけれど、信じてしまいそうになる。
「じゃあ、次に同じ夢を見たら、助けてください」
『まかせろ』
二人で、同時に笑い合う。
こうなった時ほど会いたくてたまらない。
言わないけれど、夢ではなく、本物の黒尾さんにしがみつきたいんですよと、その言葉を飲み込んだ。
その夜。
本当に同じ夢を見た。
すでに足元は崩れ落ち、伸ばした両手が扉を掴んで、体を支えているだけだった。
黒尾さんの姿は何処にもなかった。
何を間違っただろうか。
会いたいと素直に言えばよかったのか。
できないことを伝えて、相手に負担をかけるのはどうなのか。
言っていい時とわるい時くらいの判別はできる。
自分の全体重を支えているはずなのに不思議と腕は痛くない。
夢だからなのか。
都合が良すぎる。
「しがみつけって言っただろ」
「隣りにいなかったくせに」
両手をつかまれ、すごい力で上へと引っ張りあげられた。
扉は開いていて、気にする間もなく中へと入った。
目の前には黒尾さんがいた。
「大成功」
「なにがですか?」
「俺を呼んだだろ。ヒーローは呼ばれないと助けに行けない」
「呼んだ覚えはありませんけど?」
「でも呼ばれたんだ」
目の前の黒尾さんはなぜかきらきらと光っていて、それはヒーローだからなのかなと思った。
「次も会えますか?」
「ツッキーが呼べば会いにいく」
きらきらと光る黒尾さんはまたもや簡単に言って、その姿を消した。
目が覚めたときには、見慣れた自室の天井があった。
(疲れた)
仰向けに寝転がったまま、ほっと息を吐いた。
自分の願望がこんな夢となって表れるのであれば、毎回疲労困憊で目覚めたくはなかった。
(次はちゃんと、言おう)
それが無理難題でもきっといつか解いてくれるのだ。
黒尾さんは、ヒーローなのだから。
崩落した一本道から笑顔で救い出すことを成功させる。
その強さにも惹かれたのだろう。
(会いたいです)
目を閉じて、笑う顔を思い浮かべた。
終わり
初出 2014-09-30 00:07:02 privatter
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