忍者ブログ
KTTK111のオフ活動のお知らせや短編置場、時々雑談。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

あの日は空を見ていた。
メールが届くより先に綺麗な満月を見ていた。
同じ、空を、見ていた。


黒尾は、特に意味のない写真を撮っては月島に送っていた。
野良猫、神社の鳥居、体育館の屋根。
ふと、目に付いたものを写して、メールを送信する。
返事があればいいなとは思う程度の、ことだった。
理由を聞かれることはきっとない。
月島のことだ。
本当に知りたかったら電話をした時かもしくは次に会った時に直接聞いてくるだろう。
それが、ない。
かわりに、同じような写真が送られてくるようになった。
柴犬、狛犬、校門の影。
言葉はひとつもないというのに、まるで、会話をしているようだ。
月島の見ているものを見ることができる。
月島が、何を思って写真を送ってるのかはわからないけれど、黒尾としては半分狙い通りだった。
遠く、離れている分、知らないことしかない。
知らないことを教えたかった。
自分が今、見ているものを月島にも見て欲しかった。
一緒にいない代わりに。
最初の写真を送った理由は、それだけだった。


ただの思い付きだった。
部活の休憩中、水呑場で顔を洗った。
銀色の水道の蛇口は、どの学校にもあるものだ。
でも、今、自分の見ている蛇口は、月島の、烏野高校にはないものだ。
そう思ったら、写真を撮っていた。
ほとんど返信の来ないメールに言葉を尽くしてもきっと伝わらない。
だから、視覚に訴えてみたらどうだろう。
一枚目。
反応がないのは、予想通りだ。
少しくらい、なんだこれはと思ってくれただろうか。
呆れた顔と溜息の音を想像したらなんだかおかしかった。
天気が良かった。
青空がきれいだった。
二枚目。
暑い日差しから逃れるように駆け込んだその大木は欅だった。
三枚目。
帰り道。
足元を見たら真っ黒な影が長く伸びていた。
四枚目。
ちゃんと、届いているのだろうか。
写真だけでなく、それ以上のものが。
待てど暮らせど返信はない。
(……期待はしてなかったけどな)
頑なな人を想って笑う。
他に思いつかなかったので、手のひらを撮ってみた。
五枚目。
送った写真を見て、何を思ったのか、聞いてみたい。
聞いたところで素直に答えてくれはしないだろうけれど。
次に会える日が待ち遠しいと思ったのは、初めてだった。
帰り道、空を見上げたら三日月があった。
空は、繋がっている。
月も太陽も星も。
今日の天気予報は全国的に晴れだったと、朝の記憶を呼び戻す。
同じ、月を、見ればいい。
黒尾はメールを打った。
『空、見てみろよ』


離れていても、そばに、いたかった。



終わり

拍手[0回]



初出 2014年7月20日 00:48 pixiv
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4067090
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[52]  [29]  [51]  [27]  [50]  [24]  [23]  [22]  [21]  [19]  [18
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
HN:
香月珈異
性別:
女性
バーコード
ブログ内検索
忍者カウンター
ついったー
Admin / Write
忍者ブログ [PR]